冬夏古典文庫 〇〇一
モンテ・クリスト伯
アレクサンドル・デュマ 作/保科 隆明 訳
『モンテ・クリスト伯』は、十九世紀のパリで新聞に連載され、読者が続きを待ちわびた物語です。長さに尻込みする人もいるでしょう。けれど中身は、すべてを奪われた一人の男をめぐる、いまのドラマにも引けを取らない娯楽小説です。
- 原作
- Le Comte de Monte-Cristo(一八四四―四六年)
- 別題
- 巌窟王(黒岩涙香の翻案で知られる題)
- 底本
- フランス語原典(Project Gutenberg)
- 構成
- 分冊四巻/合本
- 収録
- 訳者まえがき、主な登場人物
- 形式
- EPUB(縦書き)
- 公開
- 二〇二六年十月二十九日
- 価格
- 無料

ダウンロード
一冊にまとめた合本と、四つに分けた分冊があります。中身は同じなので、読みやすいほうを選んでください。読み込みが重くなりやすい端末では、分冊がおすすめです。
分冊
-
第一巻をダウンロード 412KB第一巻
第一章〜第三十一章
-
第二巻をダウンロード 398KB第二巻
第三十二章〜第五十五章
-
第三巻をダウンロード 390KB第三巻
第五十六章〜第八十四章
-
第四巻をダウンロード 408KB第四巻
第八十五章〜第百十七章
冒頭を読む
第一章 マルセイユ――入港
一八一五年二月二十四日。ノートル=ダム・ド・ラ・ギャルドの丘の見張り所が、一隻の三本マストの帆船を見つけて合図を送った。ファラオン号――スミルナを発ち、トリエステ、ナポリを経て帰ってきた船である。
いつものように、港からはすぐさま水先案内人の舟が漕ぎ出した。舟はシャトー・ディフの脇をすり抜け、モルジウ岬とリオン島のあいだで本船に乗り移った。
それと同時に、これもいつものことだが、サン=ジャン要塞の見晴らし台は物見高い人々で埋めつくされた。マルセイユでは、船が一隻帰ってくるだけでちょっとした事件なのだ。ましてファラオン号は、古代ギリシアのフォカイア人が拓いたこの古い港町の造船所で生まれ、ここで艤装され、ここで荷を積んだ船であり、しかも持ち主はこの町の船主ときている。
船は近づいてくる。カラサレーニュ島とジャロス島のあいだ、太古の火山の揺れがえぐったという狭い水道を無事に抜け、ポメーグ島をまわりこみ、三枚のトップスルと船首の三角帆、船尾の縦帆だけを張って進んでくる。だが、その足取りがいかにも重く、どこか沈んで見えたので、見物人たちは本能的に不幸の気配を嗅ぎとり、船の上でいったい何があったのかと囁きあった。
もっとも、海を知る者の目はもうひとつのことを見抜いていた。何かが起きたにせよ、それは船そのものの身に起きたのではない。ファラオン号は、申し分なく操られた船だけがもつ確かさで進んでいたからだ。錨はいつでも落とせるよう構えられ、船首の帆柱を支える鎖も外されている。そして、マルセイユ港の狭い入口へ船を導こうとする水先案内人のかたわらには、きびきびとした、鋭い目の若者が立っていた。若者は船の動きのひとつひとつに目を配り、案内人の号令をそのまま復唱していた。
群衆のあいだに漂う漠然とした不安は、サン=ジャンの見晴らし台にいたひとりの見物人の心を、とりわけ強くとらえたらしい。男は船が港に入るのを待ちきれず、小舟に飛び乗ると、ファラオン号を迎えに漕げと命じた。小舟はレゼルヴの入江の沖あたりで本船に追いついた。
男の姿を認めると、若い船乗りは案内人のそばを離れ、帽子を手に、舷側にもたれて待ち受けた。
十八か二十歳ほどの若者だった。すらりと背が高く、美しい黒い瞳に、漆黒の髪。その物腰のすべてに、幼いころから危険と渡り合ってきた者だけがもつ、落ち着きと揺るぎなさがにじんでいた。
「おお、ダンテスか!」小舟の男が叫んだ。「いったい何があった? 船じゅうがこんなに沈んだ空気なのは、どうしたわけだ?」
『モンテ・クリスト伯』第一章の冒頭です。続きはEPUBでお読みください。ダウンロードへ



